公立大学法人 大阪公立大学
Equity(公正)& Justice(正義)を軸としたソーシャルアートコーディネーターの人材育成事業
~育成実績紹介インタビュー~
- = プロフィール・キャリア =
- 端野真佐子(アートコーディネーター)
-
1978年生まれ。京都女子大学卒。2001年、舞台芸術に関する知識・経験がないまま舞台業界に入る。アートコンプレックス1928 (現:ギア専用劇場)や大阪市立芸術創造館に従事し、最初は舞台照明、その後は技術管理、公演・WS制作、ホール運営、ファンドレイジングなどを経験。(公財)びわ湖芸術文化財団では補助金相談員や共生社会事業の業務に携わった。現在は認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえのプロジェクトリーダーとして「アートを活用した社会包摂による地域共生社会づくり」を担当している。
若年性アルツハイマーの父との暮らし、子育てで孤立した経験から「誰もとりこぼさない社会」に関心を持っており、いまは京都比叡山の麓で、夫、高1・中2の息子、犬のムースケ、ご近所さんたちとごきげんに暮らしている。
- = 参加した事業 =
- 大阪公立大学「Equity(公正)&Justice(正義)を軸にしたソーシャルアートコーディネーターの人材育成」 ※EJは、Equity(公正)&Justice(正義)の略称 ● 基礎講座 ● 実践・場づくり ● 評価・レクチャープログラム ● EJ Café ● EJ 芸術祭
- = 事業に応募した経緯 =
- アートの分野では、事業そのものが意義ある内容であっても、現場では低賃金で不安定な雇用が常態化し、志を持った人々の善意に依存するケースが少なくありません。共生社会事業も同様であり、私は「プロセス段階でもその理念が必要ではないか」と感じてきました。本講座は、近年欧米で実践されているJustice, Equity, Diversity, and Inclusion (JUDI)の考えに基づいてソーシャルアートコーディネーターを育成するもので、技能や専門性向上だけでなく、精神的な側面にも重点を置いている点に惹かれました。私自身、これまで時間的、金銭的な余裕がなく現場での試行錯誤で経験を積み重ねてきていたため、長期間にわたりアーティスト、アートマネージャー、研究者、学生、行政職員、中間支援関係者らと意見交換しながら概論から実践、評価まで学べることは大きな魅力だったと思います。
- = 事業で学んだこと =
- 反抑圧的ソーシャルワーク AOP (Anti-oppressive(social work)practice)
AOP実践を通じて自分の過去を振り返ると、女性であること、非正規雇用、ハラスメント、介護・育児等のケアワークなど「抑圧構造の当事者」として若干みじめな気持ちと共に、事実を受け止めることになりましたが、研究者がファシリテーターとして伴走してくださったことや、AOPに共感する仲間の存在が気持ちの支えとなりました。これまで当事者として悩んできた時間は、参与観察に似た成果を生めるのではないかと意識が変わり、過去をポジティブに受け止めることができました。個人の直感に基づくモヤモヤが、学びや評価軸の活用を通じて解像度を上げながら整理できたことで、状況を分析し、論理的に次なる一手を考えられるようになったと思います。プロジェクト遂行時は事業そのものが目的化したり、アカウンタビリティのプレッシャーから数値で示せる結果を求めがちです。でもそこに誠実さや心があるか。プロセスも含めて多様性、公平性が保たれているか。その哲学を捨てないためには事業に息を吹き込むアートマネージャーが正義に向き合い、使い古された言葉をあらためて考え直すこと、それを伝える力を持つことが大切だと思いました。- = 事業で学んだことを活かせた事例 =
- ■学会誌への寄稿文執筆 文化経済学会「文化経済学(2023年20巻2号)」(特集:文化芸術分野のジェンダー・バランスについて) 「劇場で働く女性の労働実態と、組織が抱えるジェンダーギャップがもたらす弊害」 (熊倉 純子、端野真佐子、西山 葉子) https://doi.org/10.11195/jace.20.2_11 ■ジェンダーギャップ調査への協力 「日本演劇領域におけるジェンダー調査-2023冬-」(調査・運営:一般社団法人Japanese Fitm Project) https://jfproject.org/research/ ■日本文化政策学会 第17回年次研究大会での企画フォーラム開催 「創造の場におけるジェンダーギャップ調査のマッピング ― だれもが活躍できるワークライフバランスの実現を目指して ―」
- = 今後のキャリアプラン =
- 地域におけるアートコミュニケータの活躍推進 Chat GPTはオンライン上の言葉から学習します。誰もとりこぼさない社会を考える際、「聲なきに聞き、形なきに見る」ことは、人に与えられた役目だと思います。「仕方ない」「諦めた」など沈黙の向こう側にある本心に気付けるのは本人や身近な人たちです。そのためには多様な人たちが集まり、多様な価値観に出会う場、あたたかい人たちに囲まれ自分らしく過ごせる居場所が必要ではないでしょうか。地域コミュニティでアートと人をつなぐアートコミュニケータが「わたしなんかが」と遠慮せずに誇りを持って活躍できるよう応援していきたいです。また子育てや介護等を抱えながらも活動する人たち(主に女性)が仕事として続けられる道が作れるよう、自らがモデルとなり、仕組みづくりや雇用創出に貢献したいです。
国立大学法人 大阪大学「中之島に鼬を放つⅢ——大学博物館と共創するアート人材育成プログラム」 ~育成実績紹介インタビュー~
- = プロフィール・キャリア =
- 坂本京子(公益財団法人神戸市民文化振興財団)
-
1982年生まれ。関西大学文学部総合人文学科国語国文学専修卒。在学中から関西大学美術部白鷲会や映画研究部で制作をおこない、パフォーマンスアーティストなどの記録映像を撮影したことをきっかけに、ヴィデオ、写真、パフォーマンスなどの表現にも関心を広げる。卒業後はデザイン会社やウェブ制作会社などに勤め、2015年に神戸ビエンナーレ組織委員会事務局に従事。2016年から公益財団法人神戸市民文化振興財団に入職、神戸を中心とした文化振興事業に携わる。事業部では音楽事業やアート・プロジェクトKOBE 2019:TRANS- などを担当。現在は神戸国際フルートコンクール事業を担当。神戸のアーティストコミュニティC.A.P.[芸術と計画会議]メンバー。プライベートでは漫画・イラスト・映像・デザイン制作など行うこともある。
- = 参加した事業 =
- ■令和3年度「徴しの上を鳥が飛ぶⅢ-文学研究科におけるアート・プラクシス人材育成プログラム」 https://shirutori.org/
■令和4年度「中之島に鼬を放つⅠ——大学博物館と共創するアート人材育成プログラム」
■令和5年度「中之島に鼬を放つⅡ——大学博物館と共創するアート人材育成プログラム」
https://nakanoshima-itachi.org/
NU茶屋町での展覧会「アクセシビリティ・リサーチ・ラボ 展」より、《サインフル・カフェ》の展示風景
この企画では受講生が主体となってトーク、インスタレーション、ワークショップ、パネル展示、映像など、さまざまな角度からこのアクセシビリティを考えました。 この展覧会の中で私は「あるかもしれぬー茶屋町 《サインフル・カフェ》《アクセシビリティ「 」ショップ》」の企画立案に携わりました。 この写真は 《サインフル・カフェ》の展示風景です。私たちを取り巻く環境をサインに変換することを試みました。
- = 事業に応募した経緯 =
- ちょうど大きめのアートプロジェクトの事務局から解放され、事業部から総務部へ部署異動した時期でした。それまで土日が催事などで埋まっており、外の公演はおろか財団の主催事業すら観れない日々だったので心身共に少し余裕ができた時期でした。しかしながら根っから自分を追い込む気質なのか、事業に関わっていないと自分自身の感覚が錆び付くのではないかと心配になり、何か職場以外で活動できる場所がないか探していました。そんな中、神戸アートビレッジセンター(現・新開地アートひろば)のチラシ配架コーナーで「徴しの上を鳥が飛ぶ」のチラシを見つけました。文学的なタイトルにも惹かれ、中身はかなりボリュームがありそうだったので今が学びのタイミングなのかもしれないと直感的に思い応募しました。
- = 事業で学んだこと =
- 大学という場所で先生方から貴重な講義を受けさせていただき、文化芸術の現在、過去、未来、可能性について積極的に考えるきっかけをいただきました。実践的な部分においても、仕事でアーティストと対話しながら事業を進めていくシーンは多いのですが、プログラムではもっと生々しい現場を経験できたように思います。これまで前例踏襲的になんの疑問も持たずに事業をこなしていた部分を自覚できましたし、慣れている(と思い込んでいるだけかもしれない)環境で漫然と事業を進めていくことは将来的に何も生み出さないとすら感じました。また、それぞれ経験や、年齢、価値観などが異なり、神出鬼没でコントロールが効かない、まさに鼬とお呼びしたい受講生の方達と一緒にアートを実践的におこない、考えていくことは極めて難解で刺激的でした。多様な人材と膝を突き合わせて実際に展覧会を企画したり、アーカイブに漫画を活用したことも自身の仕事やライフワークの了見を広げ、柔軟性や応用力を養うポジティブな経験となりました。また、プログラムから新しいアートのレパートリーが生まれ、作品が生み出されていく場に立ち会えたことは非常に稀有な経験でした。
<主な参加プロジェクト>
■展覧会 パブリックアートってなんだ? ―《タイムストーンズ400》と考える
https://www.museum.osaka-u.ac.jp/2022-01-15-16035/
■展覧会 くるまいすでGO! どうする★バリバリア
https://www.museum.osaka-u.ac.jp/2023-02-02-17295/
https://drive.google.com/file/d/1t9INA3CRJ-Qw2GmWhduhlQ5iY9rpKvHr/view?usp=drive_link
■アクセシビリティ・リサーチ・ラボ 展@NU茶屋町
https://www.art.osaka-u.ac.jp/news/2633.html
- = 事業で学んだことを活かせた事例 =
- 財団では芸術文化に関する知見や人脈を深め、事業展開に活用させる目的で国内研修制度というのがあるのですが、本プログラムをその報告会で共有し、関西のアートシーンの動向を含め、劇場や施設におけるアクセシビリティや文化芸術の可能性について問題提議しました。劇場・音楽堂は社会包摂の機能を有する基盤としての役割も求められており、具体的な方法を編み出さなければならない喫緊の課題です。また2025年、当劇場では神戸国際フルートコンクールという事業があり、世界中からフルート奏者が神戸に訪れます。海外の方へのアクセシビリティはもちろん、劇場に訪れることができない病院の患者様や高齢者施設の方にも音楽を通して交流できるようなプログラムを計画中です。社会包摂という言葉を形骸化させず、本質的な部分を捉えながら実践的なアイデアや工夫を現場で検討していきたいと考えています。
- = 今後のキャリアプラン =
- 日常を変化せざるをえない出来事が続き、それらと共存していかなければならない状況で、何か前向きな回答を導き出せないか、アートはそういった一連の模索に付き合ってくれるのではないかと大きな可能性を感じています。一方で、私たちの仕事は業界の中での情報になりがちなので、積極的に劇場の外に出て、新鮮な情報を取り入れていく必要があります。フレームワークを整備し、マニュアル化、均一化することも必要なのですが、閉塞的にならないよう、知識と感性の幅を広げていくことも求められています。分断と対立といった言葉をよく耳にするようになった昨今、それらを乗り越えていくためにも時代に寄り添った意味のあるコンテンツを生み出しながら、今後も学びを続けていきたいと思います。
公立大学法人 京都市立芸術大学 共生と分有のトポス〜芸術と社会の交差領域におけるメディエーター育成事業
~育成実績紹介インタビュー~- = プロフィール・キャリア =
- 賀門利誓
-
1988年大阪府枚方市生まれ。高槻市在住。京都にて在学時より染色を専門に学び、多岐にわたる日本の染色技法と染色科学を平面作品、インスタレーションに応用した作品を制作。
2014年 現代アートのコンペティション「TERRADA ART AWARD」TERRADA賞受賞
2016年「藝文京展2016 ―現代の平面」京都市長賞受賞
2014年-2017年 京都精華大学 芸術学部 テキスタイル研究室 助手
2017年-2019年 京都精華大学 芸術学部 非常勤講師(2018年 広島市立大学非常勤講師 特別講義)
2019年 同校を経て大阪ガスビジネスクリエイト株式会社にて、公共施設の企画・運営ディレクターに
2021年「子ども読書活動推進事業 守口市立図書館開館一周年記念 共同事業 気骨の作家 田島征彦が染め上げる!絵本原画と型染めの世界展」、「春休み特別企画 Yottaの素晴らしき映像魔術〜逆再生〜」(守口市立図書館)など
2022年「新鋭絵本作家展 Up-and-coming Artists Exhibition(出展作家 みやけゆま、鹿島孝一郎、まきみち)」(守口市立図書館)など
同館において、2023年「子ども読書活動推進事業 New Year特別企画 tupera tupera 絵本ライブ」や、音楽事業ロビーコンサート(主な出演者 山下真理奈(クラリネット)& 池田佑香(ピアノ)、山田祥美(オペラ ソプラノ)等)、「染ラボ」「漆ラボ」(伝統的な文化や技術にふれるワークショップ)など数々の事業を手掛ける。
現在、大阪府枚方市にある御殿山生涯学習美術センターにて副責任者として文化事業に携わる。
- = 参加した事業 =
- 共生と分有のトポス 〜芸術と社会の交差領域におけるメディエーター育成事業
主催:公立大学法人 京都市立芸術大学
助成:令和5年度 文化庁 大学における文化芸術推進事業
- = 事業に応募した経緯 =
- 芸術と地域との関わりに貢献がしたいという思いで応募しました。崇仁地区の背負ってきた歴史、地域の誇りの空洞化や住民の絆・記憶の分断など、本プロジェクトを通してどのような方法や手段で未来へ向けて歴史や人の想いを紡いでいけるのか。私自身もこのメディエーター育成事業を通して、生涯をかけて真剣に向き合いたかったからです。
- = 事業で学んだこと =
- 芸術と社会の交差領域において、何が出来るのか自身に問い直す機会となりました。
フィールドワーク、レクチャー、ケース・スタディなど、各回を通じて思考し、また時には身体的なアプローチ(町を回遊する・音を生み出す・木版画を彫る等)から、自身の感覚が世界へ向けて開かれていくのを感じました。第一線でご活躍されている講師の方々の考えやその活動を直に学ぶ機会もあり、時に参加者の皆さまとも対話や協同制作のプロセスも経験させて頂きました。また、地域コミュニティ、建築、震災や紛争、ジェンダーについて等、多岐にわたる視点から考えることもありました。毎回期待値を上回る内容で、大変刺激的でした。唯一無二のプログラムであったと思います。この事業を通じて、これまで以上に多くの気づきを得ることが出来たように感じています。- = 事業で学んだことを活かせた事例 =
大阪美術学校創立100年記念(※1) 関連事業では、自治体さまに企画案をプレゼンし幾つかの事業を実現させました。創立100年記念の今年1年間を通して、関連イベントを継続的に実施しているところです。
共生と分有のトポス 〜芸術と社会の交差領域におけるメディエーター育成事業から、エッセンスを得て内容に反映させた部分も多くあります。
例えば、御殿山の渚商店街さまと協働で空き店舗を活用したアートプロジェクトや、町全体を巻き込むようなイベントを先々に予定していますが、いずれも100年先の未来に向けて芸術のスピリットを絶やさないために挑戦しています。
まだ公開出来ない情報も多く、ここではご紹介出来兼ねますが、御殿山生涯学習美術センターのホームページなどで順次公開予定です。是非ご覧頂ければ幸いです。
■御殿山生涯学習美術センター
https://www.hira-manatsuna.jp/gotenyama/
個人の活動としては、「時の光/空白の歴史に」という作品において、大阪美術学校閉校からのどこにも記されていない空白の歴史について物語る複数の映像の断片からなる作品を制作しました。
地域にゆかりのある「地主」「神社の神主」「キュレーター」「アーティスト」「レセプショニスト」が其々登場し、エンドレスに語り出します。時に声が重なり、一方の声を聴こうとすると一方が聴こえなくなる。鑑賞者と作品の間で絶えず分有と共生が繰り返され、物語る登場人物達の其々の願いを微かに感じる。そんな作品です。
本作は、第1回となる「TERRADA ART AWARD 2014」の受賞者20名からアーティスト10名をフォーカスし、作品展示を通して彼らのアウォード受賞後のキャリアの歩みの中で見せたドラスティックな作風・表現の展開を紹介する展覧会で発表しました。
■WHAT CAFE EXHIBITION vol.33(2024.01.06 - 2024.01.16)
詳しくはこちらをご確認ください。
https://cafe.warehouseofart.org/exhibition/what-cafe-exhibition-vol-33/ https://youtu.be/QerVp-jFZLE
※1 大阪美術学校は1924年に大阪天王寺区に開校され、その後1929年に大阪府枚方市御殿山に移転。1944年陸軍に接収されるまで、多くの芸術家を輩出しています。この学校跡地を活かして、1987年に御殿山美術センター(現在、御殿山生涯学習美術センター)が設立。現在もなお、創作設備の充実した「市民のアトリエ」として地域に親しまれています。今年は、1924年大阪美術学校開校から100年を記念した事業を様々行っています。- = 今後のキャリアプラン =
- アートを生業として、自分に何が出来るのか考えて行動し、キャリアを描きたいです。アートマネジメントの現場での実績と活躍を通して、自身の成長に繋げ、しっかりと評価頂ける取組みをして参ります。
アートマネジメントの現場では、作品制作と同様にどれだけの経験や知識、創造/想像力や計画・実行力、そして情熱があるのか常にシビアに問われます。そのためにも、共生と分有のトポス 〜芸術と社会の交差領域におけるメディエーター育成事業で、第一線で活躍している講師の方々から受け取ったものをしっかりと活かしていきたいです。 まだまだ未熟ですが気合いで頑張ります!国立大学法人 東京芸術大学 (国際芸術創造研究科) 「すみだ川アートラウンド」〜ARTs×SDGsでつながる 隅田川流域の民間組織コレクティブ化構想
~育成実績紹介インタビュー~- = プロフィール・キャリア =
- 堀崇樹(足立区社会福祉協議会)
-
1974年生まれ。東京モード学園中退後、日本大学でドイツ文学を学ぶ。卒業後、日本大学大学院文学研究科(社会学専攻)で福祉の地域づくりを研究。博士後期課程満期退学。ターミナルケア、訪問介護に従事後、行政向けの社会調査・計画策定支援を行うコンサルタントとして市町村、都道府県の案件に関わる。2012年から足立区社会福祉協議会で、地域包括支援センターなどの業務に従事している。日本大学文理学部兼任講師。日本介護福祉学会理事。東京都生活支援コーディネーターカリキュラム検討委員会委員。主な著作に「新聞報道にみる孤独死の動向と問題の所在」(2012年、『社会学論叢』第173号)、『社会・人口・介護からみた世界と日本』(2014年、時潮社、共著)などがある。
- = 参加した事業 =
- 「すみだ川アートラウンド」(東京芸術大学)
- = 事業に応募した経緯 =
- 以前からゆるいつながりのあったNPO法人音まち計画ディレクターの吉田武司さんから、お誘いをいただき、参加させていただくことにしました。高齢者の介護予防施策では、医学的なエビデンスにもとづく運動や体操の活動が圧倒的な主流を占め、人材や予算が集中的にあてられていますが、2021年度に実施した大日本印刷株式会社様との連携による対話型美術鑑賞(介護予防教室)に大きな反響をいただいていたことから、文化・芸術の活動を通じた介護予防の可能性を探ってみたいという気持ちでした。
- = 事業で学んだこと =
- 2022年度から始まった事業では、高齢者の皆さんが集まる話し合いの場で「参加したい介護予防活動は?」とアンケートを行いました。結果は「運動・体操」が約6割、「文化・芸術」が約4割となり、継続的な取り組みが必要と確信しました。考えてみれば私たちもそれぞれ趣味・嗜好は一人ひとり違うわけで、マラソンやジム通いが趣味の人もいれば、音楽や映画鑑賞が趣味の人もいます。体育会系と文化系という言葉がありますが、「孤立防止や社会参加に取り組むには、文化系の人の入口も必要なんだ」と気づくことができました。
実施したプログラムでは、保育園に通園する5歳児と高齢者との交流をベースに、知的障害者も加えたパフォーマンスを通じた実験的な取り組みを行いました。参加した高齢者からは「私たちの世代は正解と不正解がはっきりあって、間違えてはいけないという思いが強くある。この教室に参加するなかで、正解も不正解もない、自由でいいんだなと思うことができた」などの意見をいただきました。パフォーマンスは、高齢者が自身の生活世界のなかで培ってきた枠組みを外していきいきと表現し、自分自身を再発見する機会と参加意欲の向上に資するプログラム形式だと思いました。
共催した保育園の園長先生からは「特に3回目は顔見知りの方も多くなり、(園児が)笑顔で参加する姿が強く印象に残りました」とコメントをいただきました。終了後、保育園、生活介護事業所から継続的な取り組みの希望をいただいており、アートは縦割りの福祉行政を結ぶ媒介にもなりうると実感することができました。
- = 事業で学んだことを活かせた事例 =
- この事業に取り組みながら、平行してアーティストグループと住民との協力で「居場所の大切さ」や「居場所活動の悲喜こもごも」を主題とした演劇作品「こもラジ!」を実施することができました(2024年2月)。アンケートでは「演劇がすごくわかりやすかった。おもしろい。うるうるした」「どんどんこのような会を開いてほしい」などの回答があり、医療・福祉の専門家が解説する講義とはまったく異なる介護予防事業の可能性を感じました。2023年度に行った関連プログラムは計7本ありましたが、いずれもこの事業のベースなくしては成立しなかったと思います。 https://www.youtube.com/watch?v=Qbd8mslo1i0 また、本事業からの派生プログラムとして、「アートと介護・福祉の勉強会」をオンラインで企画・開催しました(2024年2月)。申込者は「介護・福祉」86人、「アート」28人、「その他」25人の計139人で、「その他」には教育、デザイン、家族介護者、医療、一般企業など多様な領域の方々が含まれていました。参加者の多様さからもうかがわれるように、アートは介護・福祉のサービスや社会参加に困難を抱える人々とその外部社会とをつなぐ触媒として大きな可能性を有していると感じることができた勉強会でした。 https://socialnetcd.jimdofree.com/document/
- = 今後のキャリアプラン =
- 本事業の経験を糧に、日本介護福祉学会と足立区社会福祉協議会の共催で、公開講座「アートプロジェクトで拓く 介護と福祉の参加支援」の開催を予定しています(2024年7月)。今後は介護予防だけでなく、要介護の方や社会参加に困難を抱える人々の活動機会の創出にアートとの連携で取り組んでいきたいです。引き続き、介護・福祉とアートの世界に橋をかける活動を続けていけたらと考えています。